たくさんのお運び、誠にありがとうございますm(__)m。Web亭落語講座、案内人の落語語朗(らくごかたろう)と申します。皆様に落語の魅力を紹介しております。

落語は世界で一番シンプルな演劇と云われることがあります。出演者は一人、衣装は着物のみ、小道具は扇子と手ぬぐいだけなのであります。噺家(落語家)さんたちはそんな扇子を使ってタバコを吸う仕草を表現したり、手ぬぐいを使って手紙を読んだりする仕草を表現したりいたします。

でも、ちょっとした他の小道具の使用がなされることもございます。立川志の輔師匠は渋谷のパルコ劇場で実施している志の輔らくごinPARCOで毎年、趣向を凝らした演出をされています。こちらで、かけられたお噺「七福神」ではナポレオンズさんばりのトリックイラストを用いたり、スカーフのお手玉を披露して楽しませてくれました。

さて、この噺家さんが持つ小道具、扇子と手ぬぐいはカゼ(風)とマンダラ(曼陀羅)とも言われます。近頃は座布団に座ってお辞儀をした後、語り始める噺家さんも多いのですが、お辞儀のあと、おもむろに扇子をとりだして、自分の前に置く所作をする方もいらっしゃいます。この所作によって、噺家さんはお客さんとの間に結界をつくっていらっしゃいます。

それによって、私(わたくし)は居ないものだと思ってください。そういった意味が込められております。花魁のセリフを発する時は、あなた様の頭のなかで美しい女性の姿を浮かべてください。ご隠居さんおセリフを発する時はあなた様の頭のなかに頑固おやじの姿を思い浮かべてください(優しいおじいさんを思い浮かべる方もいるかもしれません)。そう呼びかけているのかもしれませんな。

噺家さんが投げかけた言葉を自分がふくらませる。それが落語ワールドの楽しみの一つでございます。日本の古典文化、短歌とか俳句なんかにもそういったところがあるのかもしれません。それが、現代の「空気読め」なんてところにつながってきたりしているのでしょう。

この噺家さん風の扇子、通販でも買えますよ。落語扇子(高座扇子)って検索なすってください。最近ではクールビズでエアコンの温度も控えめで扇子使われている方も多く見られます。落語扇子使っているとお洒落かもしれません。

さて、手ぬぐいの方でございますが、こちらには高座で噺をしている時にかいた汗を拭くという実用的な意味もあります。噺家さんが手ぬぐいをマンダラ(仏教で世界を象徴しているものです。布や紙に描かれます)と呼ぶのは、これを用いて本や手紙、財布などを表現するからでしょう。昔はこれらが世界そのものだったのでしょう。人も想いが込められているものでございます。

手ぬぐいは噺家さんがご自分の名前を染められて、ファンの方に贈られたりもしております。

そして、もう一つ、上方落語では東京の落語では使われない小道具があります。それは見台と言われる台と拍子木です。見台はちょっと小型の文机のような感じのものです。噺のメリハリを出す時など見台を拍子木でピシッ!と叩きます。

上方の噺家さんが東京で公演をする時にも使われることがあります。以前、笑福亭鶴光師匠は「東京では見台用意でけへんから、講釈師の先生から借りますのや」と言っておられました。「1回500円や」だそうです。

上方の落語はその発生期、辻(路上)で演じられることも多く、見台と拍子木の音で行きかう人の注目を集めていたのが由来になっているとも云われております。以上、落語の小道具の一席でございます。お後が宜しいようで…m(__)m